2011年6月21日火曜日

鉋合せ・・削り比べ

平安時代から行われてきた
「合せ」を鉋でやってみました(参照
通常、「合せ」は番(つがい・二つ一組)で行われますが
今回は三丁の鉋で行いました
削る木は、よく乾燥させた
ホンジュラス・ローズウッドという硬く緻密な板です
30年近く寝かせていたものです

日本でいえば紫檀の部類に入る木ですが
真黒(まぐろ)本黒檀ほど堅牢ではありませんが
粘りがあって緻密な材質なので
削り難さでは木材の中で筆頭に属するでしょう
今回のものは板目交りで
所々に強烈な逆目があります

さて、まず最初に登場するのは
ここ数日このブログに登場している
初代・金井芳蔵の寸六一枚鉋です
刃角度は23.5度
粘りが強い材質なので
刃のかかりが少なくなるように
刃先を弓形に研ぎ直しました

削り肌は問題ありませんが
部分的な強烈な逆目は止まりませんでした
これはやはり二枚刃の鉋で
押え金を思い切り詰めた状態で
削らないと無理のようです

一枚目の画像の削り屑を出した後の
刃先の状態です
早くもかなり摩耗していますが
まだ切れは止んでいません

さて次は、前回の真黒本黒檀削りで
あっという間に切れ止んだ東郷鋼の登場です
寸八で刃角度は26度

前回の真黒本黒檀ほどガンコな材ではないので
この木には実力を発揮してくれました
切れ味よく、逆目も軽く止まりました

 刃先は少し摩耗した程度です

最後に粉末ハイス鉋の寸八二枚刃(参照
刃角度29度
これは一般的に売られているもので
価格は二万数千円のもの

切れ味軽く、逆目もキッチリ止まりました

刃先はほとんど変化なし

これで結果が出ました
ホンジュラス・ローズウッドという堅木に対し
最も優秀なものは粉末ハイス鋼の鉋でした
次に東郷鋼、そして初代・金井ということになりますが
初代・金井の、刃先が摩耗していても
切れ続ける永切れには今回も驚かされました
他には甘めの東郷鋼も試してみましたが
初代・金井よりも刃先は丈夫でした
刃角度はほぼ同じですから
このことからも初代・金井の鋼は
青紙系と思われます

ただし、前回述べたように、研ぎ感や切れ味
それから永切れの仕方は
通常の青紙とは明らかに違います


11 件のコメント:

halu さんのコメント...

鉋屑を見るとこの材がいかに手ごわいものか伝わってきます。

さすが粉末ハイスですね。
道具としては良。
一本は買いたいと思います。

でもモノ作り、感や味が一番です。

ところで以前花カリンを削った鉋はどうですか?
玉鋼のものは小刀しか持ってませんが鉋も手に入れたいと。

楽器製作家 田中清人 さんのコメント...

花梨を削った鉋は、今回使った東郷鋼の寸八二枚刃です。
粉末ハイスも切れ味いいですよ。
いま台を打ってもらっている初代・金井寸八二枚刃も
こちらに届いたら試してみたいと思います。
玉鋼鉋は寸八一枚刃は訳あって知人のところに行っていますが
堺仁の寸六一枚刃は手許にありますので、いっしょに
ホンジュラスローズウッドで試してみたいと思います。
http://kiyond.blogspot.com/2011/04/blog-post_06.html

楽器製作家 田中清人 さんのコメント...

初代・金井鉋の研ぎ仕上には中世中山産のものが合うようです。
今回のものは、仕上研ぎは中継ぎとして中世中山天井巣板
そして仕上として中世中山の硬めの並砥を使いました。
この組み合わせでしたら、小鳥砥の次に持っていけます。
ただ、小鳥砥もいろいろな面で試してみたのですが、
縞模様の板目の面で研いだ方が傷が浅くて済むようです。
一般的に青砥は柾目で研ぐように言われていますが
小鳥砥のようによく下りて研磨力が強いものは
板目でちょうどよいのかもしれません。
三河名倉は柾目、板目はほとんど関係がないように思いますが・・

halu さんのコメント...

オークションで金井鉋はゲットならずでした。
私は野暮用が有ったので、うちから独立した若い衆に頼んでおいたのですが、あまり見た目が良くないと思ったらしく追わなかったようです。
残念。
外栄さんに連絡してみます。

私のところにある小鳥砥は、何だか四方柾みたいです。
とりあえず今面付けをしていないほうに面をつけて試してみます。

kiyondさんのブログを参考に自分なりにいろいろ試してますが、だんだんわけが分からなくなりつつあります。
ここは一度整理をしようと研ぎは6000番までを人工砥石にして最終仕上げを天然石にしています。
6000番と天然石の切れ味の違いを比べることで基準が出来ればと思ってます。

三河名倉は名倉しか持ってないのでこれも欲しいです。

何だか物欲の塊みたいですが、これも仕事の原動力ですよね?

楽器製作家 田中清人 さんのコメント...

オークションの金井鉋は初代ですか?
初代を一丁持っていたら、今後他の鉋を手にされたときの
比較の基準になるでしょうね。

研ぎは人によっても違いますし、刃物と砥石の相性
というのもありますし、私の研ぎもHPやブログに
UPした時点での一過性のものですから
適当に参考にする程度にしてください。
今は違うやり方で、明日はまた別の研ぎ方をしていると思います。
それと、持っている砥石をできるだけ皆使いたいので
これを使おうと思ったら、それ前後に使う砥石は自ずと決まってくるのですが、
数が多いので覚えきれていないのもあるのです。
それがまた楽しみではあるのですが・・
物欲の塊りの結果です・・
これは仕事の原動力であります。

私は人造砥は#2000までしか持っていないので
それ以上細かいのをあまり知らないのですが、
人によっては、#6000の後に硬めで粒度の細かい
青砥で研ぎ、それから天然砥で研ぐということもするようですね。
皆さんいろいろ試されているのですね・・
今は良い三河名倉はほとんど出回っていないので
人造ものの方が質は良いと思います。
目が締まっている三河中名倉を使うくらいなら、
たとえ目起こしをして使っても、荒めの仕上砥の方がよほどマシです。

匿名 さんのコメント...

初めまして。名前記入欄の仕組みがわからずとりあえず匿名にて失礼します。記事内の金井鉋の刃角度についてですが23.5度と割と鋭角ですが、刃物鋼と刃角度の関係性はどういった基準で決断されておられるのでしょうか??硬度が高い物は焼き戻し等されておられる様ですので、その境が気になりました。ご教示頂ければ幸いです。

楽器製作家 田中清人 さんのコメント...

コメントありがとうございます。
このブログをUPした時点では刃角度は23.5度でしたが
これではさずがに角度が低すぎ、永切れはあまり期待できないので
現在は27度ほどで研いでいます。
鉋の刃角度はこれまでいろいろと試してみましたが
楽器製作ではよく寝かせた乾燥材を使いますので
刃角度が25度以下では刃先の磨耗が早いので、
どのような鋼でも28度くらいで研いでいます。
ローズウッドなど堅木を削るものは30度ほどで
台の仕込み角度は九分勾配にしています。
ハイス鋼鉋の市販されているものは台の仕込み角度は
ほぼ八分勾配なので28度ほどで研いでいます。
鉋の刃の研ぎは、私は最後の仕上砥ぎで刃先部分を若干蛤刃にしているので
実際は1度~2度ほど角度が高くなっているものと思われますが・・

硬度が高い刃を焼き戻すのはほとんど小刀で
鉋刃は焼戻しは行いません。
逆に鉋刃で焼きが甘いものは焼入れのやり直しは行います。

匿名 さんのコメント...

明瞭な回答ありがとうございます。やはり28度前後が理想的な角度でしたか…
最近入手した作者不明の寸六鉋が、凛とした佇まいに一目惚れして錆落としから再生し現在使用しているのですが、どうも硬度が高く刃こぼれ、びりつきが出て困っています。切れるには切れますがタモ材など削りますとキーンと高い音が出て永切れしません。以前の使用者が裏出しも出来ない方だったようで、状態は古かったですが新古品とゆう感じでした。そこで焼き戻しを考えたのですがもしかしたら鉋身に焼きを入れる際、中心と周辺では焼きの入りが変わってしまうのかと考え、我慢して研ぎ減らしているところです。中心と刃先の焼き具合の関係性を言及しているサイトはあまり無かったので全くもって想像ですがkiyond様のご意見は如何でしょうか??

楽器製作家 田中清人 さんのコメント...

鉋刃につきましては、これまでかなりの数を焼き入れ直しを行いました。
その経験から言えることは、ご指摘のように「鉋身に焼きを入れる際、
中心と周辺では焼きの入りが変わってしまう」ということは考えられると思いますが
鉋全体を同じように赤めることは可能ですので、腕の良い鍛冶屋さんならば
そのようなヘマはしないのでは・・と私は思います。
それよりも焼戻しのやり方の方が影響が大きいのではと思います。

焼戻しを行う場合、昔ながらのやり方では火にかざして行いますが
このときには温度は刃先の方が早く上がり、身が厚いところの
中心部は温度が上がるのに時間がかかることになります。
ということはたとえば180度の焼戻し温度にする場合、
刃先が180度になった時点では内部はそれよりも低いはずです。
つまり、刃先よりも内部の方が焼きの戻りが浅いということが言えます。
その結果焼き入れの状態によっては刃先よりも内部の方が
硬度が高いということも有り得るのではないか・・と考えられます。

次に温度管理をし、一定に保った環境(油での焼戻しなど)で焼戻しを行う場合は
じっくりと時間をかけて温度加えると、鉋身全体を所定の温度にすることができるので
ほぼ狙いどおりの焼戻しが行えるのではないかと思います。
お手持ちの鉋身がどのように焼入れと焼戻しを行ったのかは
分からない状態ですので、私でしたら、とりあえず180度に温度を設定した環境で
じっくりと焼戻しをやってみます。
それで様子を見、まだ硬すぎるようでしたら今度は200度で行う・・
ということを試みると思います。
それを行い、250度ほどで焼き戻しても刃こぼれがある場合は
鋼の素性が悪いと私は判断してきました。実際そのような鉋は仕事では使えませんでした。

匿名 さんのコメント...

なるほど、確かに毎日刃物鍛治をやっている職人さんが焼きムラを出すとは考えにくいですね…焼き戻しがそんなに原始的な方法で行われていたのも知りませんでした。それでは鉋身の特性としては内部に行けば行く程、戻しきられずに硬度が高くなっていく可能性がありますね。kiyond様のご意見をよく咀嚼して、過去の鉋と照らし合わせると、最初はイマイチだが徐々に切れてくる(切れ味が安定してくる?)様に感じるのは、下ろしたての刃先は所謂なまくらで、徐々に硬度が上がるにつれ刃物の成分バランスがとれてきていたのかもしれませんね。
今回のように初めから硬すぎる鉋には当たった事が無かったので困惑してしまいました。kiyond様の記事の中の、アイロンを使った焼き戻しを実践してみようかと思います。刃物全体を乗せる気でいましたが、とりあえず刃先のみ乗せて様子を見てみようかと思います。
本当に丁寧にご教示頂き、誠に有難うございました。お邪魔にならなければ、結果報告させて頂きたいと思います。

楽器製作家 田中清人 さんのコメント...

少しでも何かお役に立てれば幸いであります。
焼戻しの結果、ぜひご報告願います。
多くの方と共有できれば有意義なことだと思います。