2011年7月19日火曜日

炭素鋼寸八鉋合わせ


身が短い鉋を納めるところに
木片を貼り付けて
鉋を納めやすいようにしました
ついでに、この木片を加工する際に
四丁の鉋で削り比べを行ってみました

使った木は建築用のスプルース
材質は重めで粘りのあるものです
こようなスプルースはクラシックギター用の
響板や部材としては使えませんので
こういった、作業場の造作などに使っています


 長さ30cm、幅8cmほど、厚み22mmの
木片を荒削りしていきます
削り屑の厚さはコピー用紙ほどです

まず、初代か二代か不明の炭素鋼系寸八
一枚刃(参照)の登場です
刃角度は約24度
焼き戻しをしてからは、この鉋は好調で
刃角度の影響もあると思いますが粗削りでも軽く
調子よく削ることができます


 削り肌も荒削りとも思えない滑らかさです



 次に同じく昨日登場した炭素鋼系一枚刃の寸八
石社鉋です(刃角度28度)
初弘に比べるとかなり切れが重く感じます
刃角度の影響でしょうか・・


削り肌は美しく問題ありません



これも昨日登場した
1977年製スウェーデン鋼の
無銘・常三郎寸八 刃角度は約27度


この鉋独特の鋭い切れ味で
心地よく削ることができます



藤井刀匠作の玉鋼寸八の登場です
刃角度28度


これも軽い切れですが上の常三郎鉋よりは
切れ味に粘りを感じます
切れの軽さは常三郎とほとんど同じでしょうか・・
ということは、石社一枚刃とは刃角度が同じなので
石社鉋は切れが重いということになります

この後、木片を仕上げるまで
常三郎スウェーデン鋼と
藤井刀匠玉鋼を交互に使っていきました
木片が仕上がった時点の
スウェーデン鋼の刃先の様子
切れはまだまだ止んでいません


こちらは玉鋼の刃先
こちらもまだまだ健在です

交互に使っても切れ味の違いは明瞭ですが
切れの軽さはほぼ同じ感じを受けます
甲乙付け難しといったところでしょうか・・


以上、炭素鋼系寸八4丁による削り合わせの結果
左端の初弘が最も優れていました
次にその右のスウェーデン鋼・常三郎
と藤井刀匠・玉鋼が並んで次席
右端の石社鉋は今回のスプルースでは
他のものに水を開けられてしまいました




2011年7月18日月曜日

鉋 鉋 鉋


今日はメープルの荒削りを行いました

 これは19世紀ギター、ラプレヴォット・タイプ
裏板ですが、ソフト・メープルとはいえ
この材はとくに粘りが強烈で、こういった木を
荒削りするには、やはり身幅の狭い鉋に限ります
とは言うものの、あまり小さな鉋では仕事にならず
力強く削るにはある程度の重さも必要です
ということで、いつもは寸六の
「も作」と「中惣」銘の鉋を使っています
鋼は「も作」は炭素鋼系の安来鋼白紙
「中惣」はスウェーデン鋼と思われますが
以前にも言ったように、青紙鋼は切れが重く
メープル削りには私は使いません

今回、12日に紹介した中惣寸六(身幅63mm)
を試してみましたが、焼き入れを
やり直してからは、見違えるような切れと
永切れの鉋に変身してくれました


そして、これは初代・初弘 寸六(身幅65mm)
これも軽い切れで、楽に削ることができます


ここまできたら、他の炭素鋼系の
新たに入手したものにも登場してもらいましょう
これはスウェーデン鋼の無銘・常三郎 寸八(身幅70mm)
 寸八ですが、刃の出を控えめにすれば
荒削りに使えないこともありません
研ぎで刃先を弓形にもしています


そしてこれは昨日紹介した石社鉋 寸八
この鉋は一枚刃なので、やはり切れは軽いです
強烈な逆目があると、一枚刃での荒削りは
無理な場合もありますが、この材は大丈夫です


 これは大原鉋の玉鋼二寸(身幅76mm)
これも一枚刃なので二寸幅でもなんとかいけます


そして最後に刀匠・藤井鉋の玉鋼寸八
以上、どれもすばらしい切れ味で、しかも永切れしますが
玉鋼の鉋は他の炭素鋼に比べると
やや切れは重い感じを受けます
最も切れが軽いのはスゥェーデン鋼でした

この後、試しに青紙鋼の鉋を使ってみましたが
やはり切れが重く、メープル削りには
とても使う気になれません



 
ラプレヴォット・タイプの裏板の荒削り終了です
両面で5mmほど削りましたが
この広さの板でも粘りの強いメープルを
5mm削り落すのは重労働です
どうしても鉋に助けてもらう必要があるのです


2011年7月17日日曜日

石社鉋と刀匠による玉鋼鉋

今日は製作中のBox-ハープのニス塗りと

 次に製作するギターの準備の合間に

 二丁の鉋を仕立てました
画像下は石社(いしこそ)氏作の寸八一枚刃
そして画像上の鉋は
刀匠の藤井啓介氏に鍛えてもらった玉鋼寸八
藤井刀匠はここ数年、古刀の名刀に迫る地鉄
と刃文の作品を世に出されていて
コンクールでも今回はトップ入選を果たされています
そのような実力者の刀匠が
刃物として特にシビアな鉋の切れというものにも
興味を示され、私の要求に応えてくれました

 氏の鍛刀場には
当然ながら鉋身を仕上げる設備はないので
荒身として受け取り、表・裏の透きは
こちらで適当に行いました
私のところにも鉋身のための設備はないので
大小のグラインダーを使って
なんとか使用できる状態まで漕ぎつけました
台も取りあえず他のものを転用しました

結果を先に言ってしまえば
こちらの手持ちの鉋のなかでは
トップクラスの切れと永切れです
鉄のことを知り尽した刀匠であるからこそ
実現したものと思いますが
氏の実力に感服しました

まず驚いたのは研いだ時です
鋼にこれまでに経験したことのない
粘りを感じたのですが
現状では28度の刃角度を確保するのに
鎬幅が5mmほどしかなく
その部分はほとんど鋼なのですが
それでも砥石によく反応するのです
つまり研ぎ易いということになりますが
砥当たりの粘りが尋常ではないのです
これには驚きました
鉋身にするということで、炭素分が多めの
玉鋼を選んだということですが
それでも炭素分は0.6%ほどということで
刃物用の炭素鋼が1%以上あるのに対して
炭素量は少なめと言えるので
その影響で研ぎ易いのでしょう

仕上研ぎも苦労することはなく
これにはたいへん助かります

ということで藤井刀匠が鍛えた玉鋼寸八を
早速使ってみました
まずいつものパサパサのスプルースですが
軽い切れで心地よく削ることができます

 削り肌はややザラつきがありますが
研ぎのせいかもしれないので
これは今後の課題としておきます

その後、細かい刃こぼれは無くなりました

次にハード・メープルを削ってみました
これも軽い切れです

逆目は完全に止まっています
 削り肌はほとんど問題ありません

 さて、問題のガンコな不明材の登場です
二枚刃にしたので押金をよく効かせましたが
削りは軽く、刃先がやられている感じはなく
驚くほど永切れします

 逆目はほとんど止まりました

刃先はまだまだ大丈夫です
中央部右寄りの細かい刃こぼれは
この試し削りの後に
建材用スプルースを削り
その節を削った際に欠けたものです

 次に石社鉋寸八の登場です
鋼は炭素鋼系で刃角度は28度
一枚刃なので削りは軽快

 削り肌に艶があり、美しく仕上がります

ハード・メープルも問題なく削ることができます


ガンコな不明材も軽く削ることができ
この鉋も驚くほど永切れします
藤井鉋といい勝負です

 1枚刃なので逆目は止めることができませんでしたが
これだけ永切れすれば御の字です

 刃先はまだまだ大丈夫です

参考までに
以前紹介した優れたスウェーデン鋼の
無銘常三郎寸八に登場してもらいます
これも軽い切れで永切れしますが
上の二丁には及びません
刃角度は27度

 二枚刃ですから
ほぼ逆目は止まりました

 刃先はかなり摩耗していますが
まだ切れは止んでいません
この鉋も十分に優れていると言えます

炭素鋼の初弘鉋

今回は初弘 三態のうち中央の
初代か二代か判然としないものを紹介します
鋼は炭素鋼系で、上の三丁のうち
最も研ぐのが困難でした


いつものパサパサのスプルースを
削ってみましたが


削り肌が細かく毛羽立っています
手触りもザラついた感じです




ハードメープルを削ったら


刃先が所々細かく刃こぼれしました


刃先を拡大してみました
この鉋身も、研ぎ角度が蛤刃に研いでも
24度くらいしかありませんが
それでもこのように刃こぼれをおこすのは
ちょっと問題があるように思います
ということなので
焼き戻しをしてみました(参照
今回は175度前後で2時間かけました


そして研ぎ直しましたが
研いだ感触に粘りを感じるようになりました
この画像は中世中山・天井巣板の研ぎ傷


そして最終仕上げとして
大平産・戸前で研いだ状態です




削った音が軽く爽やかになりました


削り肌も美しい艶になり
手触りも滑らかです
焼き戻しがうまくいったようです

今後、仕事で使ったらまた報告する予定です