順徳院琵琶合では
様々な琵琶の音の表現が
なされていますが
それを掻い摘んで
紹介してみます
「その音りやらめく所なし」
「音に勢いあり」
「ひびらく所なし」
「その音甚だ烈はげし。
そうそう急雨の如し」
「その音尤も健やかなり」
「音勢などはいたく
大きならねども
声色こわいろことに美しく、
ゆるゆると聞こゆ。
泉流幽咽し(静かに流れ)、
水下に難かためるに似たり」
「声色ことに美し。また、
したたかなる所もあり」
「聊か りやらめく所あり」
「声色乾きたるやうにて、
したたか鳴るばかりなり」
「声色すこぶる
品あるところあり」
「したたかなる琵琶なり。
声色はなつかしく、
けぢかき所はなけれども、
攻め力あり」
「音色殊のほか澄める
ところあり」
「りやらめき声などは
強あながちに優れねども、
声色などはゆへびて聞こゆ」
「浅々とある音」
「その音頗る尋常なり。
けぢけきさまの声あり」
「声色などはゆへゆへしき所あり」
「声色殊勝なり。したたかなる所も相具せり」
「声色ことに美し。いかいかしきところもあり。
音勢は小さけれども りやらめき声など殊勝なり」
「声色ことに潔くもろし。
りやらめく所あり。
その音 玉盤に大珠小珠
落つるに似たり」
*玉盤に大珠小珠
落つるに似たりは
唐より伝わった「琵琶行」の
表現を真似ています
「物より破れいづるがごときの声あり。
所謂、銀瓶を破り乍ながら水漿の迸る様即
この琵琶の音の姿なり」
以上、いかがでしょうか
その中で「りやらめく」
という表現が頻繁に出てきますが
以下まとめてみました
*其音りやらめく所なし
*其中には聊いささかりやらめく所あり
*雑木の琵琶なればりやらめく所はなけれども
*なつかしくりやらめきたることはなけれども
*りやらめき声などはなし
*りやらめき音などはなけれども音色尋常なり
*音勢はちいさけれどもりやらめき声など殊勝なり
*こは色ことにいさぎよくもろしりやらめく所あり
*りやらめく音をもちて琵琶の至極とする事
この二の霊物(玄上と牧馬)よりおこれり
これらから推察すると
楽器の音の良い条件だと思われるのですが、
はっきりとした意味が判ればありがたいところです。
言語学者の菅野裕臣(かんの ひろおみ)氏によると、
日本語、朝鮮語などのアルタイ語に属する言語では、
語頭に「r」が立つ言葉は本来なかったということです。
つまり、「ら・り・る・れ・ろ」ではじまる言葉は
もともと日本語にはないということで、
あるとすればそれは漢字語やその他外来語が
入ってきてからのものだそうです。
そうすると、順徳院琵琶合に頻繁に出てくる
「りやらめく」という琵琶の音の形容語は
来語ということになります。
それは、おそらく琵琶がペルシャから中国
あるいはインド経由で日本に入ってきた際に
楽器の音の良し悪しを表現する形容の言葉も
いっしょに伝わってきたものと思われます。
あるいはまた、楽器製作者が日本に渡って来た
ということもあり得るのでないでしょうか。
そうした時に「りやらめく」、あるいは「りゃらめく」という
音の表現も伝わってきたということも考えられます。
そういうことなので、ペルシャ語に詳しい人に訊いてみましたが、
「りやらめく」に該当するような言葉はないということでした。
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