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2023年3月14日火曜日

匠家必用記 下巻 16章、17章読み下し

匠家必用記下巻 16章、17章の
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十六 相生相尅の弁
俗説に人に水・火・木・金・土の五性あり。相生相尅の理に因て柱立・屋造・棟上・移徒(わたまし)に忌年忌月有。若是をしらずして其ことなせば、かならず災起るといふ。今按ずるに、五行相生相尅のことは唐土(もろこし)の聖経賢伝に載る所、諸士百家此理を信ずるにより卜者は人に五行を配し、相生相尅を以て万事の吉凶を告、未来奇異をかたる。ぐにん(愚人)はこれを信じて心の惑と成ことを知ず。或曰、天地の間は五行の気、用をなすににはあらず。用をなすものは只陰陽のみ也。陰陽二気、昇降して運行


止(やむ)をなきにより、万物其中に生ず。其気至て著明なるものは水火の二つ也。人身のごとき此気形体に周流して天地の気に通ず。今此二気の外に木金土の三つを加て、五行の気とせり。木金土と(の)三行は水火に対すべきものにあらず。土は重たく(濁)のかすにして此体のほか別に気有にあらず。陰陽の気を土中にうけて、万物栄枯の用をなす一身の骸(かばね)のごとし。金は土の精(くわしき)ものなり。木は一身の羽毛のごとしといへり。故に五行と称する


者は仮に名付たることにて、実の理にあらず。勿論一人に一行づつ配して何生とし、相生相尅を以て吉凶を定は卜者の徒が人を惑す妄言也。相生とし相克を凶とする其理正しからざること譬ば番匠は常に道具を以て木を伐、器を製す。是金尅木也。鍛冶は火を以て鉄を淬(わかす)故火尅金也。此金尅木、火尅金と尅するを以て諸々の器財、太刀、刀等の刃物も出来て人の重宝となれば、相尅は凶にあらず。相生を吉といひがたし。今仮に


其理をいふときは、相尅は反て人の用をなす處の元也といへども必竟無益の論にして、人の惑となることなれば、かならず信用することなかれ。故に屋造り、棟上、移徒、五行相生相剋を用ずして、何の災かあらん。上古より宮殿を建立するには、南を表とし北を後とす。又は東を表に西を後とし、是陰陽向背の理也。此外別に法あらず。人家を造立するにも大略是に准(したが)ふとき、第一明受よく且又冬の寒気をしのぐに勝手


よきものなり。然ども其土地により、西向、東向にしてよろしき地もあるとき、しいて是を南向にせんと願ば、往来の難もあるべし。宮社は格別、人家は其地の宜しきに従ひ方角にかかはらず、人々の家業に便よろしきやうに造立するに則よき方角といふもの也。棟上、移徒とても家業の故わり(さわり)にならざる月日を考て、其事をなすべし。是則其人に置て吉日なりとしるべし。そうじて番匠は其頼人のこのみに従ひ造作することなれども、其人の愚にて五行相生と相尅を信ずる人には、よく此訳をいひきかすべし。去ながら理をもっていふときは、其理ありといへども、ことに置ては実にその理はなきもの也。理りて其事なしといふ語あり。察し明むべし。

 

十七 屋敷取吉凶の弁

近世流布の大匠雛形の添書番匠秘事に屋敷取相形の事を載たり。東不足の地は福有、西たらずの地は貧也。南たらずの地は福あり。北たらずの常にくるしみあり。東西長きは貧也、南北長きは福あり。此外東狭き地、西狭き地、筋違等の地もそれぞれに貧福吉凶ありといふ。因ておも(ふ)に今京都東西の町にて考れば、凡表口より裏口長し。然ば、其町筋の人はことごとくみな福者たるべきに、貧者もあれば福者もあり。又東たらずの地は福地


なりといへども貧者も有。北たらずの地は常にくるしみ有といへどもヨクタノシムモノもあり。其余は是に準じて屋敷取地形に吉凶あらざることを知べし。唯其人の家業に便よろしき地をえらみて家を建立して可也。富貴貧賤のことは元来命なれば、我才覚を以て求べきことにあらずといへども、人の心持によって善とも悪とも、禍とも福ともなる事也。常によく慎人は災変じて福と成、くるしみ変じて楽(たのしみ)と


なり、家長久するすることは慎の一つにあり。たとひ貧にくらすとも、よくつつしむ人は自然と相応の楽有て万事苦労なく一生災といふことをしらざる也。又不慎の人は少のふく有とも尋常のことにはあらず。あやうき者也。必後に一信(倍)の有て心を労し、楽もくるしみとなり(る)こと、みな心の用い様にあり。世間の人々のみのうへ心持の善悪を見て考え知るべし。なんぞ屋敷の地形によって人の


禍福有りんや。又俗説に東の棟、西の久しといふことあり。よんどころ無き妄説也。是等を信ずる時は自然と禍を招くごとく人の害となること甚し。よくかんがへて用べからず。彼ばんじやう(番匠)秘事といふ書はひとのまこと(まことはまとひ:惑の間違い)に成事多し。しん用(信用)することなかれ。
立石氏

匠家必用記下之巻終

以上で江戸時代宝暦五年(1755年)に
出版された「匠家必用記」
shouka-hitsuyo-ki
上巻・中巻・下巻
の読み下しすべてを紹介しました
作者は美作国
mimasaka-no-kuni
津山(岡山県)の
立石定準(Tateishi Sadanori)

2023年3月12日日曜日

匠家必用記下巻 14、15章の 読み下しを紹介

匠家必用記下巻から
14、15章の
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十四 寺建立心得の事
寺を造らんと願ば、地鎮の祭並柱祭の神事におよばず造立すべし。寺は汚穢不浄の場所なれば地鎮祭並棟上のとき、番匠として職神を祭ことなり難し。且は寺へ酒肴等を入れ事も本意ならず。此時は寺の外清浄の地をえらみて棟上の行粧(よそほい)をすべし。棟上の神事、前のごとく御供とは別火を用べし。神事終て


後、其地を引はらひ寺へ入、棟をあぐべし。寺よりいかほど頼とも寺にて棟上の神事執行(とりおこなう)べからず。職神へ対しはばかるべきこと也。其地汚穢不浄なきにおいては棟上の神事執行ともくるしからず。神宮寺並祈祷寺等の不浄なき寺は棟上の神事常のごとし。然どもときのよろしきにしたがひて可也。その外、民家たりともけがれ(汚穢)ふしやう(不浄)の地にをひて祖神を祭ることなり難し者也。よく考て棟上の執行べし。


十五 唐尺の弁
俗間に門を建立するに唐尺の銘、財・病・離・義・官・劫・害・吉との寸を用、是則北斗七星を象り此よき寸にあたる所を以て門の間をきわむ。若此ことをしらずして造り、其あし寸に当ときわ、かならずわざはい起る。家繁昌せずといふ。又曰、宅の側に木をうへる、その木の品に因て(よって)人の禍福(くはふく)有といふ。因ておもふに禍福有て唐尺より出たるにあらず。天命と又人の慎、不慎にあり。なんぞ寸尺或は植樹によって人の吉凶あらんや。仮令(たとい)右のよ



き寸法に合門を建ると。ふつつしみの人は禍かならず遠かるまじ。ましてや此唐尺起りは唐土の卜者の徒あ妄言にして、居家必用にも是を出せり。日本にも好事者是をよき事とし、或は唐尺の寸に八卦をそへ、方角をえらみて日取とき(時)取などとわけもなきことをいひののしれり。近世大匠雛形にも是を添て印行せり。人を惑すのはなはだしき也。只其地のよろしきにしたがひ門を建立して少しも災なし。又俗間に鬼門金神を大に忌をそるる事あり。是其根元をしらざる故に災起るもの也。くわしくは広益俗説説弁、本朝俚諺(りげん)を見て発明すべし。

2023年3月10日金曜日

匠家必用記 下巻 11、12、13章 読み下し

 匠家必用記下巻から
11、12、13章の
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十一 鳥居の事
鳥居は神代の神門也。今宮社に用るは神代の遺風にして、木の鳥居を本式とす。当時鳥居を造ならば、先其宮の古例を尋、鳥居の風を定べし。又は御神名に付ても造やうある事なれば、よく吟味して造べきこと也。鳥居に品々有。神名の鳥居、黒木の鳥井、しま木の鳥居、三王(さんのう)鳥居、三輪の鳥井、稲荷の鳥居、わら座の鳥居、丸木皮剥ぎの鳥居、等の制あり。此ことえおしらざる人は識者に問て造るべし。若古例なき宮は神明の

鳥居、丸木皮削の鳥居、黒木の鳥居にして可也。近世押通り嶋木の鳥居に造は其宮によって自然と誤も多かりなん。又外に雨覆ある鳥居、或は石ずべの鳥居にして略義なり。式正のことにあらず。又、石の鳥居、唐かねの鳥居は是又略義也。心あらん人は木にて造り、時折造りかへるを本式とす。木は桧を用べし。余の木を用べからず。伊勢の石唐金のたぐひを用ざるをみてすいりやう(推量)すべし。故に名目抄も石にて鳥居をつ

くるは後世のついへなり、といへり。番匠たる人常に心得有べきこと也。鳥居の文字を書に、鳥居、鳥栖と書べし。花表(かひょう)と書べからず。鳥(花か?)表は鳥居に非ず。其形大に異也。花表のの図、列仙伝にあり。見べし。近世鳥居の文字をあやまりて、花表と書は大なる間違也。すべて鳥居は神代の神門と見て可也。内宮儀式帳にも不葺御門と有。今の鳥居のこと也。今在家かまへの入口に木を弐本立、笠木をして竹の戸あり。脇に柴垣等有。是則神代鳥居の象。柴垣は玉垣の意也。又俗説に鳥居は天の字を象りたるものといへり。按ずるに漢字は漸(ようやく)応神天皇の御宇にわたりて、是より已前文字なし。鳥居は神代よりあることなれば、附会の説論するにおよばず。よく考知るべし。

十二 棟上の事
棟上は宮造り屋造りの成就にして、別て目出度神事也。親類打寄朋友招き酒くみかわし、幾千万歳も子孫繁昌と祝し目出度目出度と唱、千秋らくを諷(うた)ひ、万歳楽をと賀はいともかしこき神国の風義(ならはし)ありがたきことならずや。番匠は此ことをかみより伝へてわがおもふ處少しも違はず成就したるは職神の御恵也。疎(おろそか)におもふべからず。故に此こと棟に棚をしつらひ職神を祭り、祝儀を献ずること普く人のしりたること也。然に祖神の御名を取失ひて、聖徳太子を祭らば嘸(さぞ)祖神も心よくばおぼし


めしまじ。されどもしらざれば是非なし。然ばおもはずも不忠不儀の名はのがれず。両部習合に為偽惑(だまされ)し人々、過ては改にはばかることなし。早くまことの祖じんの御名を知て、神恩を謝すべき也。棟上の神事入用の品は国の違はあれども大凡古代の法を考用べし。先、棟上には前日より心を正し、不浄を禁め(いましめ)、当日早天に沐浴(ゆあい)して浄衣(しゅえ)を着し、麻上下を着して棟木を挙べし。つちのうちよう別義なし。俗説に槌の打様、福徳寿命長久と唱て三槌打といへり。諸々に拠なし。信用するにたらざること也。兼て棟に棚をかまへ天神地衹を祭り、並に番匠の神の御神名を板に書て、大幣(おおぬき・おおぬさ)の中柱にかけ、松、榊を以て飾るべし。神社は極て東向南向也。俗家は西向北向たりとも東向南向にして、神を祭べし。

十三 神前備物の事

幣 弐本:一本は白紙、一本は青紙にて作べし。長さ極なし。見合たるにしてよし。
大幣(おおぬき・おおぬさ) 一本:常のことくへいを作り、又紐紅の麻苧(あさお)を添て付、頭に扇三本をひらきて付る。此大ぬさは本式あらざれども俗習にしたがひ書也。  
神酒 二瓶
御供 二膳:土器を用べし。
引蚫(のし) 二把
鯛 二枚
鯣(するめ) 二連
鰹 二連
昆布 二連

角樽 一荷
掛銭 二貫:或は五カン、七貫
鏡餅 二備
蒔(まき)銭 見合
小餅 見合
弓 二張
矢 二節:カリマタ、カブラヤ
以上 


右の通り用べし。何れも白木の臺木具を用て可也。ぬりものわ(は)よろしからず。番匠たる人は麻上下を着し神拝する。次に中臣祓を誦べし。次に大殿祭祓門建立の時は、大殿祭祓を除て御門祭りのたぐいをよむべし。次に一切成就の祓をよみ、次に四方へ祝儀餅、蒔銭を披露すべし。北より始、東南西と弘む。神事終て祝言を述べし。


此時禁物(いみもの)
樒(しきみ)、抹香、焼香、線香
数珠並仏具の類
仏経並真言並尼僧
汚穢不浄の人
口に不浄を言わず
右の禁べし此外万事不浄を遠ざく可也。

2023年3月2日木曜日

匠家必用記下巻 六、七、八、九、十章 読み下し 

匠家必用記下巻から
六、七、八、九、十章の
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六 鞭掛の事
鞭掛は宮でんむね板の下、破風中よりつらぬき出たる木なり。神代には万事しっそなれば、屋根まいの端外へあまいたるかたち也。男神のみやに十本、女神宮に八本也。然れども伊勢両宮にかぎり、このほかのみやには、はばかるべきことか。



七 玉垣の事
玉垣は角なり木にぬきを通し、神社の廻りに押通して之を設く。又は左の図のごとく厚き板にて造るもあり。是本式の玉垣也。或は木の皮を削ずそのまま用るあり。是を黒木の玉がきといふ也。玉がきを瑞垣(みづがき)ともあらがきともいふ。神社によりて二重、三重、設る也。然時は内にあるを瑞垣と云、外にあるを玉がきともあら垣ともいふなり。


皆是汚穢(けがれ)、不浄を入ざる為の垣也。谷氏曰、木の削たるを朱の玉垣と云。朱にぬる謂なし、と。今俗間にいふ玉がきわ過半上を立格子にして下に壁を、或は組格子に付こし板打、上に雨覆有。是は玉がきといふ物にはあらず、かべがきなり。神社のかこみなり。意あらん人は本式の玉垣に造るべきこと也。


八 拝殿の事
神社の拝殿を造るにはひじき造りなるべし。からはふ等は両部習合の制作にして、神代の遺風にあらずと先輩に聞き侍る。

九 神門の事
神門を建立するには、其地の広狭を見合、宜に造べし。近世印行の書に、門を造に唐尺の法を用といえり。甚妄説也。信用することなかれ「唐尺の弁委は後にいだしぬ」。組物彫ものづくり、或は二重(にちょ)造り、瓦ぶきと、神国の忌風にあらざる故、神の御心に叶ざらんか。門の両脇に門守の


神と安鎮ずる也。此神を豊盤間戸尊、櫛盤間戸命と云。両部習合に神門には両金剛を安置す「今俗に云仁王なり」。是を仏門に置は是にして、神門に置くは非也。くわしくは俗説弁に見えたり。

十 灯籠の事
神社のとうろうは木にてつくるを本しきとす。石、銅のたぐひは略義なるべし。


2023年2月18日土曜日

匠家必用記 挿絵

江戸時代中頃
宝暦六年(1756年)に
出版された版本
匠家必用記、上・中・下巻に
掲載されている挿絵を紹介


上巻から
番匠の作業の様子

上巻、番匠の
祖神祭りの様子


中巻、天照太神の
岩戸隠れの図

下巻から
釿始 teono-hajime の神事

下巻、棟上式の様子

以下、付録の図
鳥居の図

玉垣の図

神輿 mikoshi の図
正面図


側面図

神幸 miyuki に用る神輿は、今専ほうぎやう屋根、蕨手造りにして、組物、彫物、唐戸有。是唐土 morokoshi の鳳輦(ほうれん)といふものに日本の鳥居、玉垣を添たるもの也。屋根の上に鳳凰鳥有を以て鳳輦なることを知るべし。鳳輦の図は訓蒙図彙 kunmouzui に見へたり。又屋根の上に玉有輿有。是を玉輦 gyokuren といふ也。是又唐土の製法にして、日本の神輿にあらず。日本の神輿は古代の製法有べけれど、今此法をしる人まれ也。予近世見及所の神輿を図して、後覧に備ふ。まだしも此造にして可也。猶又古代の製法も有べし。番匠たる人は其図を尋て常に心得有べき事也。








右の雛形は一 aru 番匠古より伝ふる所也。幸にこれを求得て爰に写し、童蒙に便 tayori す。予元来此職ならねば割合寸法の事はしらず。宮を造る人此図を種として恰合 kakkou よろしく地引すべし。組物、彫ものなき故、古代質素の理 kotowari にななふべきか。


2023年2月14日火曜日

匠家必用記 下巻 三、四、五章 読み下し

匠家必用記 下巻
三、四、五章 読み下しを紹介
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 三 宮造りの事

宮社を造ら(ん)と欲ば先其やしろの故実を尋、あく迄吟味して社の風を定べし。其形様々有といへども、両部習合ならざる社は神明造りか社造りにすべし。是古代の風なり。延佳神主曰、上古宮造りの制法丁寧にして、且(そのうえ)質素也。後世の風俗は是にたがひて花靡(び)也。心あらん人は居家、調度に至迄古代の風をしたふべし。くみもの・ほりもの造は異国の


風にして、両部習合の制なれば、習合の宮はくみ物・ほり物をするともくるしからず。自余の社は組物・彫物を用ずして造るべし。然ば神代質素の理にかなひ、番匠たる人も神の御心に合べし。名目抄にも神社にはくみ物を用ずといへり。伊勢太神宮に組物・彫ものを用ずると有て、名目抄の意を思ひ合べし。中にも延喜式に載たる由来は久しき宮社は猶以て神明造、やしろ造にして可也。然ども伊勢及其外の名高き御社は故実を用ひて造れしことなれば、ことごとくその風に似するははばかるべきこと也。只何となくしっそしやうじやう(質素清浄)にしてかざり無、ていねいに古代の風をかんがへ造るべし。是人々家造りにおごるまじきとの神教也。宮社の図あらましおくに致ぬ。考え知るべし。惣じて宮社を造るには木は桧を用べし。余の木を用べからず。神代巻に、其用当を定。及ことあけてのたまはく、杉及櫲樟(よしょう・クスノキ科)此両樹者浮宝に以為(つくる)可(べし)。


檜は瑞宮の材を以為可といへり。此故に伊勢の神宮を造るに桧を用ゆるとみへたり。今雑木を用ゆるは古法にたがへり。柱を丸くすることは上古は万質素にして、山より木を切り出し皮を削、そのままはしらに用る故自然に丸し。是に倣て今宮社に丸柱を用ること也。宮を造る番匠は祖神の血脈の番匠をえらみて、工長(たくみかしら)と定こと故実也。然を今は此事をしる人もまれなり。番匠たる人も多くは姓氏を取失い、何やら角(か)やら、わけもなきことになり行、なげかしきこと也。扨宮造に臨では清浄の家に宿すべし。又は仮屋をいとなみて、是に宿するも可也。常に清浄火を食して他の火を交べからず。又病を問ず穢悪(えあく)のことに預るべからず。不浄の人と一座をする事なかれば、慎を第一としてはかまを着して、細工をつとむべし。自然おもはずけがれに混することあらば、早く其場を引はらひ、我家へかへり、清浄になるをまちてサイクをつとむべし。



四 屋根葺草の事

神社の屋根は茅ぶきをほんしきとす。こけらぶき、或は檜膚(桧皮)ぶき、とちぶき、(な)どの中古よりはじむるじんじゃにかぎり、瓦ぶきは大ひにいむ(忌む)こと也。屋根のむねにももちゆべからず。そうじて、とり井よりうちへ入べからず。もしありきたらば、はやくとりすつべきことなりと先輩に(き)けらし。


五 千木鰹木の事

千木は神社の棟左右へウチちがへたる木をいふ。違木の中略なり。上古宮を造に摶風(はぶ)の端棟へ余りたる象(かたち)也。神代の遺風にしたがひ神社にかぎり是を用。今百家にはハフと名付て棟のうちに包也。女神の千木は内をそぎ、男神の千木は外をそぐ。大政官府製法曰、大社の千木四支長さ壱丈三尺、中社の千木四支壱丈、小社四支長さ八尺云々。又一説に大社の千


木長さ壱丈六尺、壱丈弍尺、中社八尺五尺(寸か?)、小社三尺六寸、又三尺弍尺(寸か?)、弍寸(尺か?)八寸といへり。千木を氷木とも又比木とも、氷橡とも書り。ほうき本記曰、木の片掞(かたそぎ)は水火の起、天地の象也と云り。宮社により二神、三神、五神、七神を祭る宮は其御神名に付て、そぎやう内外のちがひあり。識者に問て製すべし。鰹木は斗木ともいへり。一説に大社の鰹木八丸、長五尺、わたり九寸。中社は六丸、長四尺、わたり八寸。小社四丸長三尺五寸、


わたり七寸といへり。其外神社によりて数の相違も有べし。先押通り女神の宮は陰数を用ひ、男神の宮は陽の数を用ること也。社の大小によって割合。鰹木の意は今在家かやぶきにして、棟の上おさへのため、かやを束ておく、是からすとどりといひ、或は針目おさへともいふ。是則鰹木の意也。今、伊勢太神宮に千木、鰹木を用るこのことのもと也。然ども神社により故なふして、みだりに千木かつを木をあぐることなかれ、くわしくは俗説せい弁にみへたり。