匠家必用記下巻から
11、12、13章の
読み下しを紹介
間違いなどありましたら
ご教示願います
十一 鳥居の事
鳥居は神代の神門也。今宮社に用るは神代の遺風にして、木の鳥居を本式とす。当時鳥居を造ならば、先其宮の古例を尋、鳥居の風を定べし。又は御神名に付ても造やうある事なれば、よく吟味して造べきこと也。鳥居に品々有。神名の鳥居、黒木の鳥井、しま木の鳥居、三王(さんのう)鳥居、三輪の鳥井、稲荷の鳥居、わら座の鳥居、丸木皮剥ぎの鳥居、等の制あり。此ことえおしらざる人は識者に問て造るべし。若古例なき宮は神明の
鳥居、丸木皮削の鳥居、黒木の鳥居にして可也。近世押通り嶋木の鳥居に造は其宮によって自然と誤も多かりなん。又外に雨覆ある鳥居、或は石ずべの鳥居にして略義なり。式正のことにあらず。又、石の鳥居、唐かねの鳥居は是又略義也。心あらん人は木にて造り、時折造りかへるを本式とす。木は桧を用べし。余の木を用べからず。伊勢の石唐金のたぐひを用ざるをみてすいりやう(推量)すべし。故に名目抄も石にて鳥居をつ
くるは後世のついへなり、といへり。番匠たる人常に心得有べきこと也。鳥居の文字を書に、鳥居、鳥栖と書べし。花表(かひょう)と書べからず。鳥(花か?)表は鳥居に非ず。其形大に異也。花表のの図、列仙伝にあり。見べし。近世鳥居の文字をあやまりて、花表と書は大なる間違也。すべて鳥居は神代の神門と見て可也。内宮儀式帳にも不葺御門と有。今の鳥居のこと也。今在家かまへの入口に木を弐本立、笠木をして竹の戸あり。脇に柴垣等有。是則神代鳥居の象。柴垣は玉垣の意也。又俗説に鳥居は天の字を象りたるものといへり。按ずるに漢字は漸(ようやく)応神天皇の御宇にわたりて、是より已前文字なし。鳥居は神代よりあることなれば、附会の説論するにおよばず。よく考知るべし。
十二 棟上の事
棟上は宮造り屋造りの成就にして、別て目出度神事也。親類打寄朋友招き酒くみかわし、幾千万歳も子孫繁昌と祝し目出度目出度と唱、千秋らくを諷(うた)ひ、万歳楽をと賀はいともかしこき神国の風義(ならはし)ありがたきことならずや。番匠は此ことをかみより伝へてわがおもふ處少しも違はず成就したるは職神の御恵也。疎(おろそか)におもふべからず。故に此こと棟に棚をしつらひ職神を祭り、祝儀を献ずること普く人のしりたること也。然に祖神の御名を取失ひて、聖徳太子を祭らば嘸(さぞ)祖神も心よくばおぼし
めしまじ。されどもしらざれば是非なし。然ばおもはずも不忠不儀の名はのがれず。両部習合に為偽惑(だまされ)し人々、過ては改にはばかることなし。早くまことの祖じんの御名を知て、神恩を謝すべき也。棟上の神事入用の品は国の違はあれども大凡古代の法を考用べし。先、棟上には前日より心を正し、不浄を禁め(いましめ)、当日早天に沐浴(ゆあい)して浄衣(しゅえ)を着し、麻上下を着して棟木を挙べし。つちのうちよう別義なし。俗説に槌の打様、福徳寿命長久と唱て三槌打といへり。諸々に拠なし。信用するにたらざること也。兼て棟に棚をかまへ天神地衹を祭り、並に番匠の神の御神名を板に書て、大幣(おおぬき・おおぬさ)の中柱にかけ、松、榊を以て飾るべし。神社は極て東向南向也。俗家は西向北向たりとも東向南向にして、神を祭べし。
十三 神前備物の事
幣 弐本:一本は白紙、一本は青紙にて作べし。長さ極なし。見合たるにしてよし。
大幣(おおぬき・おおぬさ) 一本:常のことくへいを作り、又紐紅の麻苧(あさお)を添て付、頭に扇三本をひらきて付る。此大ぬさは本式あらざれども俗習にしたがひ書也。
神酒 二瓶
御供 二膳:土器を用べし。
引蚫(のし) 二把
鯛 二枚
鯣(するめ) 二連
鰹 二連
昆布 二連
角樽 一荷
掛銭 二貫:或は五カン、七貫
鏡餅 二備
蒔(まき)銭 見合
小餅 見合
弓 二張
矢 二節:カリマタ、カブラヤ
以上
右の通り用べし。何れも白木の臺木具を用て可也。ぬりものわ(は)よろしからず。番匠たる人は麻上下を着し神拝する。次に中臣祓を誦べし。次に大殿祭祓門建立の時は、大殿祭祓を除て御門祭りのたぐいをよむべし。次に一切成就の祓をよみ、次に四方へ祝儀餅、蒔銭を披露すべし。北より始、東南西と弘む。神事終て祝言を述べし。
此時禁物(いみもの)
樒(しきみ)、抹香、焼香、線香
数珠並仏具の類
仏経並真言並尼僧
汚穢不浄の人
口に不浄を言わず
右の禁べし此外万事不浄を遠ざく可也。