2011年7月15日金曜日

初弘鉋 三態


以前紹介した越後(新潟県)
三条鉋の初代・金井芳蔵
師にあたる
初代・初弘銘の寸六鉋1丁と
後代の鉋身2点を
入手しました(参照


 画像左のものは
初代・初弘の寸六
鋼は炭素鋼系と思われます
研いだ感じと刃返りの出方は
スウェーデン鋼のような感じです

中央は初代か二代と
思われる寸八
鋼は炭素鋼系で
研いだ感触は玉鋼のような
感じも受けます

そして右のものは
二代と思われる寸八
入手した外栄金物
外山さんの話では
身の馴染面に▲の刻印があるものは
鋼に安来鋼の青紙が使われている
ということです
確かに、グラインダーをかけて
出た火花は青紙のようでしたが
初代・金井と同様
現在のものと火花の出方が
違うように感じられました

これは上の画像右端の
二代・初弘です
裏押しをし、ベタ裏を
透き直したものです


研いだ感触は初代・金井
同じような
鋼に独特の粘りを感じますが
研ぎ上げは意外と楽でした
これは先日紹介した
中惣銘の青紙鋼と
同様の感じを受けました
切れ味がどう違うのか
興味が湧くところですが
台に仕込むまでもう
少しかかりますので
後日報告の予定です

 地鉄じがねのことは
詳しくありませんが
顕著なゴマや縞は
見られません

 こちらは上の画像中央の
初代か二代判然としない
ものですが(寸八)
研いだ感触は三点の内
最も鋼に強靭さを感じました
安来鋼の白紙としたら
1号のような強靭さですが
火花の飛び方は
玉鋼のようにも感じます
これも台仕込みを
終えてから
試し削りを行います



 地鉄には縞が確認できます

 さてこちらは
初代・初弘の寸六です
これは以前の使用者の御方が
丁寧に裏出しを
為されていたようで
糸裏が保たれていますので
裏押しのみ行いました

研いだ感じは鋼に
強靭さのなかに粘りを感じます



地鉄は無地風です
この寸六は
台に仕込まれているので
早速試し削りを行いましたが
切れは軽いものの
削り肌に微細な筋が残ります
これは研ぎのせいかも
しれませんので
研ぎ直してみます
参考までに
上の三点の研ぎには
すべて同じ砥石を使いました
中研ぎ:シャプトン
「刃の黒幕」1000番→
同じく1500番→三河中名倉
仕上研ぎ:中世中山
天井巣板(参照
結果は他の二点と合わせて
後日報告します

2011年7月13日水曜日

中惣鉋 三態


昨日、中惣銘の鉋が届きました

 これがそうですが
これまでに二丁の中惣銘鉋を
入手していたので
これで三丁揃ったことになります


左端が最初に手に入れたもので(参照
鋼はスウェーデン鋼と思われます

中央のものは昨日紹介したもの
鋼はよく分かりません
裏の透き直しをしたときにも
場所によって火花の出方が違うのです

右のものは今回手に入れたもの
鋼は安来鋼の青紙と思われます


今回手に入れたものは
使い込まれて身が短くなっているので
このように台の差し込み部分を削り落して
身の出し入れの微調整をやり易くしました


手に入れた時点では
刃の研ぎと台の調整は
薄削り用に為されていました
ですから上の画像のように少し厚めに削ると


このように刃の両端の角が食い込み
広い板を削るには向いていません
これは楽器用の薄い板の場合
致命傷となるのです
台の調整も薄い板は削りにくい

また鋼が青紙のためか切れが重く
ハード・メープルを削るのは無理があります


楽器用のよく寝かされたスプルースを
削ってみましたが(参照


少し削っただけで
このように刃先が白くなってしまいました
これは普通に見られる青紙鋼の様子です
それに加え、身が短くなり
この部分の焼き入れが甘くなっているのか
鋼に強靭さを感じません


研いでみても
やはり鋼に強靭さがありません


 一応、薄板削り用に
研ぎ直してみました
仕上研ぎは先日紹介した
中世中山間府の天井巣板のみ使用


 このような、両端が薄くなっている
削り屑が出るのが理想です

ということで、総括すると
手許にある三丁の中惣鉋の内
優れているのは左の二丁で
右端の青紙鋼のものは
凡庸なものと云えます

時代も押金(裏金)の形態から
左端のものが最も古いのではないでしょうか
次に中央のもの、そして右端のものとなりそうです

鉋に詳しい方の話によると中惣銘の鉋には
東京鉋と新潟県柏崎市にある中惣という
古くからの大工道具の問屋が
作らせた同名の鉋があるそうです
東京鉋は鉋身が薄いのが特徴と
言われていますので、画像左の二丁が
その可能性があります


2011年7月12日火曜日

鉋身の焼き入れ


以前紹介した中惣銘の鉋
いま一つ強靭さに欠けるので
焼き入れと焼き戻しをやり直してみました
この鉋を鍛えた人には申し訳ないと思うのですが
私としては、なんとか仕事で使いたいし
これまでの経験から、以前の状態には
焼き入れをやり直すことで
より良くなる可能性を感じていたので
思い切って断行することにしました・・



 やってみて正解でした
以前見られた鋼と地鉄の鍛接部の
不安定さも改善されたように思います
研いだ感じも鋼に強靭さを感じます
画像の地鉄に見られるヒビは
以前からあったものなので
誤解のないように・・







ハードメープルを荒削りしてみましたが
切れ味よく、以前のような
鋼の弱さが改善されました





その後、樫の木の鉋台も削りましたが
軽く削ることができました





少々のことでは刃先はやられません
以前はソフトメープルを少し削っただけで
刃先が摩耗していたのです
これで思う存分仕事で使うことができます

2011年7月5日火曜日

古代インドの金属

東方出版から出されている
Debiprasad Chattopadhyaya 著
佐藤任(たもつ)
「古代インドの科学と技術の歴史Ⅰ」
から下の表を引用しておきます

インドの各古代遺跡から出土している
金属試料のスペクトル分析表です
黄銅鉱と青銅製の斧
それからモエンジョダロ遺跡の
槍の穂からモリブデンが検出されています





こちらは紀元前3000年頃の
シングブン遺跡から出土した金属の道具に
含まれている 成分分析表です
ここでもモリブデンが検出されていますが
これは人為的に加えられたものではなく
上の表の例も、もともと鉱石に
含まれていたものと解説されています

 

2011年7月4日月曜日

優れた仕上砥は共通したところがある


これは以前にも紹介したことのある
最近手に入れた中世中山砥ですが・・
参照




上の画像の左のもので研いだ鉋身
鋼は燕鋼です
  

 これは右の砥石で研いだもの
左のものより砥当たりはやや柔らかい感じです



この二枚の仕上砥は 
昔の職人さんが使っていたものですが
上の二種類とよく似ているのです


 研ぎ汁の色はやや違いますが
砥当たりは上の二枚とほぼ同じです


上の画像左の砥石で研いだ鉋身
これは上の画像と同じ鉋身です


こちらは右の砥石で研いだもの
鋼の研ぎ上がりはほぼ同じです

この二枚の仕上砥は
厚みが1cm以下まで使い込まれています
よほど気に入って使っていたものと思われます

以前、木工家の徳永さんの工房で
徳永さんの師匠である竹内碧外氏が使っていた
仕上砥を見せてもらったことがありますが
それも中世中山砥にそっくりな顔
そして研ぎ心地でした
それは5mmほどまで使い込まれていました