2011年7月17日日曜日

石社鉋と刀匠による玉鋼鉋

今日は製作中のBox-ハープのニス塗りと

 次に製作するギターの準備の合間に

 二丁の鉋を仕立てました
画像下は石社(いしこそ)氏作の寸八一枚刃
そして画像上の鉋は
刀匠の藤井啓介氏に鍛えてもらった玉鋼寸八
藤井刀匠はここ数年、古刀の名刀に迫る地鉄
と刃文の作品を世に出されていて
コンクールでも今回はトップ入選を果たされています
そのような実力者の刀匠が
刃物として特にシビアな鉋の切れというものにも
興味を示され、私の要求に応えてくれました

 氏の鍛刀場には
当然ながら鉋身を仕上げる設備はないので
荒身として受け取り、表・裏の透きは
こちらで適当に行いました
私のところにも鉋身のための設備はないので
大小のグラインダーを使って
なんとか使用できる状態まで漕ぎつけました
台も取りあえず他のものを転用しました

結果を先に言ってしまえば
こちらの手持ちの鉋のなかでは
トップクラスの切れと永切れです
鉄のことを知り尽した刀匠であるからこそ
実現したものと思いますが
氏の実力に感服しました

まず驚いたのは研いだ時です
鋼にこれまでに経験したことのない
粘りを感じたのですが
現状では28度の刃角度を確保するのに
鎬幅が5mmほどしかなく
その部分はほとんど鋼なのですが
それでも砥石によく反応するのです
つまり研ぎ易いということになりますが
砥当たりの粘りが尋常ではないのです
これには驚きました
鉋身にするということで、炭素分が多めの
玉鋼を選んだということですが
それでも炭素分は0.6%ほどということで
刃物用の炭素鋼が1%以上あるのに対して
炭素量は少なめと言えるので
その影響で研ぎ易いのでしょう

仕上研ぎも苦労することはなく
これにはたいへん助かります

ということで藤井刀匠が鍛えた玉鋼寸八を
早速使ってみました
まずいつものパサパサのスプルースですが
軽い切れで心地よく削ることができます

 削り肌はややザラつきがありますが
研ぎのせいかもしれないので
これは今後の課題としておきます

その後、細かい刃こぼれは無くなりました

次にハード・メープルを削ってみました
これも軽い切れです

逆目は完全に止まっています
 削り肌はほとんど問題ありません

 さて、問題のガンコな不明材の登場です
二枚刃にしたので押金をよく効かせましたが
削りは軽く、刃先がやられている感じはなく
驚くほど永切れします

 逆目はほとんど止まりました

刃先はまだまだ大丈夫です
中央部右寄りの細かい刃こぼれは
この試し削りの後に
建材用スプルースを削り
その節を削った際に欠けたものです

 次に石社鉋寸八の登場です
鋼は炭素鋼系で刃角度は28度
一枚刃なので削りは軽快

 削り肌に艶があり、美しく仕上がります

ハード・メープルも問題なく削ることができます


ガンコな不明材も軽く削ることができ
この鉋も驚くほど永切れします
藤井鉋といい勝負です

 1枚刃なので逆目は止めることができませんでしたが
これだけ永切れすれば御の字です

 刃先はまだまだ大丈夫です

参考までに
以前紹介した優れたスウェーデン鋼の
無銘常三郎寸八に登場してもらいます
これも軽い切れで永切れしますが
上の二丁には及びません
刃角度は27度

 二枚刃ですから
ほぼ逆目は止まりました

 刃先はかなり摩耗していますが
まだ切れは止んでいません
この鉋も十分に優れていると言えます

炭素鋼の初弘鉋

今回は初弘 三態のうち中央の
初代か二代か判然としないものを
紹介します
鋼は炭素鋼系で、上の三丁のうち
最も研ぐのが困難でした

いつものパサパサのスプルースを
削ってみましたが

削り肌が細かく毛羽立っています
手触りもザラついた感じです


ハードメープルを削ったら

刃先が所々細かく刃こぼれしました

刃先を拡大してみました
この鉋身も、研ぎ角度が蛤刃に研いでも
24度くらいしかありませんが
それでもこのように刃こぼれするのは
ちょっと問題があるように思います
ということなので
焼き戻しをしてみました(参照
今回は175度前後で2時間かけました

そして研ぎ直しましたが
研いだ感触に粘りを
感じるようになりました
この画像は中世中山・天井巣板の研ぎ傷

そして最終仕上げとして
大平産・戸前で研いだ状態です


削った音が軽く爽やかになりました

削り肌も美しい艶になり
手触りも滑らかです
焼き戻しがうまくいったようです
今後、仕事で使ったら
また報告する予定です

2011年7月16日土曜日

青紙鋼鉋合わせ 三つ巴

青紙鋼の二代・初弘で

まず30年ほど寝かせた
ギター用響板のスプルースを
削ってみました
一枚刃の影響もあり
たいへん軽い削りで言うことなしです
刃先の摩耗もそれほどではありません
以前述べたように
長く寝かせたスプルースは
木細胞に含まれているミネラル分の
結晶化が進んでいて
刃先の摩耗が激しいのです

 次に同じくスプルースですが
これは5年ほど寝かせていた
ギター用補強材で
材質は軽くパサパサのものです

 削り肌は艶があり美しく仕上がりました

次にハードメープルを削ってみましたが

削りは軽いものの
刃角度が蛤刃に研いでも
24度ほどしかないためか
細かい刃こぼれの痕が見られ
削り肌も荒れています
しかし削りの軽さには
影響していません

そのままの刃先の状態で
ガンコな杢混じりの不明材を
削ってみました
この材は硬さはそれほどないものの
逆目が強烈に入り交り
鉋かけが最も難しい部類に入るものです
刃先もすぐにやられます

それでも軽く削ることができ
逆目もほぼ止まっています
この材は二枚刃の鉋でもなかなか逆目を
止めるのは難しいのです

 さずがに刃先が摩耗し尽していますが
まだ切れは止んでいません
驚くほど永切れします

次に同じ青紙鋼の初代・金井で
同じ木を削ってみました
なんとか削ることができましたが
切れはやや重く、切れ止むのも早かった

これも一枚刃ですが
口が広めなこともあり
逆目を止めることはできませんでした
しかしながら、この状態は一枚刃の
普通の様子なのです

刃先がボロボロになっています

さて、これは先日も紹介した
中惣銘の青紙鋼の一枚刃です
刃角度は27度ほどありますが
文字どおり、これは全く
刃が立ちませんでした
薄削り用の台仕上のためか
刃先がバタつき、使い物になりません

削り肌はご覧のとおり

刃先も完全にやられました

以上、青紙鋼の一枚刃鉋三丁による
三つ巴合わせをやってみました
結果、最も優れているのは二代・初弘
それから初代・金井そして中惣
ということになります

2011年7月15日金曜日

初弘鉋 三態 試し削り


前回紹介した初弘鉋三点のうち
鉋身だけだったもの二点を
台に挿(す)げました 





初代・初弘の台付き寸六は
前回研いだ状態では
削り肌に微細な筋が見られたので
前回よりも細かく研ぎ上げてみました
使用砥石は、中砥:シャプトン
「刃の黒幕」1000番→1500番
丹波岡花産青砥(粒度細かめ)
仕上研ぎ:中世中山・天井巣板→
大平産戸前

ギターの補強材に使う、軽くパサパサの
スプルースを削ってみました


今回は問題なく仕上がりました
鋼は炭素鋼系で、研いだ際の刃返りは
スウェーデン鋼のような感じですが
強靭で中研ぎにけっこう
時間がかかりました
その分、仕上研ぎも丁寧に
少なくとも鏡面近くまで仕上げないと
削り肌に影響がいくようです

研ぎ上げた状態では60倍の
マイクロスコープ確認しても
刃先に問題はありませんが

ハード・メープルを削った後に見てみると
微細な刃こぼれが確認できました
刃角度が22度ほどで、蛤刃に研いだので
結果24度くらいにはなっていると
思いますが
それでもハード・メープルを削るには
ちょっと酷かもしれません・・

あとの二丁は明日UPします