2012年4月7日土曜日

小刀の焼戻し


先日紹介した藤井刀匠作の玉鋼小刀をしばらく使ってみたのですが、
やや切れが重く、刃こぼれしやすい感じがあったので焼戻しをしてみました。
最初、いつものように家庭用アイロンで約170度1時間では変化なし、
次に約190度30分でも同様。それではと直火で表面が茶色になるまで
焼いてみましたが、まだこぼれる。最後に表面が青くなるまで焼いて
ようやく刃こぼれしなくなりました。これを研ぎ直し、使って驚きました。
切れ味軽く、堅くガンコな本黒檀を削っても刃先はビクともしません。
ちょうどこれから平家琵琶の置き台を作るところだったので、
台座にする堅い欅材も削ってみました(動画参照)。
出来上がった台の画像はこちらでご覧ください。

これは削り終わった後の状態
刃の元の方に青い部分と茶色い部分が
ありますが、これは焼き戻しのため焼いた跡です
茶色の方が1回目の焼き戻しで
青い方が2回目の焼戻しです



一般的な刃物では、青くなるまで焼いてしまうと焼きが完全に戻ってしまい、
(なまくら)刃になってしまうのですが、この玉鋼はこれくらいでちょうど良い
感じなのです。ちょっと考えられません・・このことを藤井刀匠に伝えたら、
「鍛冶屋の常識が覆った」と驚いていました。
それから「玉鋼は利器には向かないと云われているが途絶えた技術が
あるのではないか」とも言われていました。日本刀の焼き入れでも
焼戻しを行いますが、藤井刀匠は「私は火にかざして水滴をかけると
ジュと音がするまで熱しておりますが、匂い口が眠くなる場合があるので
サットと火にかざすだけの人もいます」と説明されています。
刀の場合は地・刃の冴えや刃文の美しさを重要視しますので、木工用の
刃物として使う場合とは焼戻しの方法が違うということはよく理解できます。



動画では削っている板の反対側の表面にも
削った痕がありますが
これも同じ小刀で削ったものです
その前にも黒檀などいろいろな木をさんざん
削った後に動画を撮ったのです
この上下二枚の画像はその後の状態です
刃先がやや摩耗していますが
まだまだ軽い切れは止まっていません





2 件のコメント:

源信正 さんのコメント...

http://blog.goo.ne.jp/kelu-cafe/e/8fad0c5559cfc4d82fd5d1d6fbe72323
面白い分析をされてると思います。
無垢の一枚鍛えのはずなのに、内部に挟み込みをしたようになっています。
熱処理次第でどうにでもなるということか。
ある程度の数値化は可能である。
しかし、最後の最後の数%は、職人の勘所で決まる。
良い出来か、それとも、最上の出来か。
最上のものつくりを目指したいものです。

楽器製作家 田中清人 さんのコメント...

たいへん興味深い資料をありがとうございます。
こうしてみると鉄というものは生き物のようですね・・
そして、同じものは二つとない・・ということもよく理解できます。
昭和10年頃の「桜ハガネ」は同じ製鋼所で製造された鋼(はがね)の中でも
最も粘りと艶があり、そのようなものは二度と造れなかったという話を
現人間国宝の天田昭次氏が著書で述べていますが、
今私の手許にある古い優れた鉋は皆その鋼が使われているような気がします。