匠家必用記上巻 九章と十章の
読み下しを紹介
間違いなどありましたらご教示願います
九 彫物の弁
俗間に堂塔の彫物をする番匠は器用也とて褒美し、彫物不鍛錬の番匠ははじ也とて賤むもの有。今按ずるに、堂塔の木鼻、渦雲、唐草等は皆番匠の職也。此外、生物、草木の類は彫刻匠の職也。彫刻匠も木匠の内の其一也といへども、今番匠、彫匠、板木匠とわかれたれば、器用たり共番匠は彫べき事にあらず。伝へ聞、上古は彫物はなきことにて、中比寺院建立の節は彫物をやとひてならしめ、番匠は番匠の職を勤といへり。必竟、彫物は番匠の表とすべき事に非ず。譬ば、屋根をふき、かべをぬるにも同じき也。
堂塔建立の節は必其人を頼て彫しむべし。番匠の極上彫より彫匠の下手が遥に勝べし。俗に餅は餅屋のが吉といふがごとく、番匠の彫物多くはいきほい(勢い)あしく、笑ひを後代にのこさん彫ざるが大に益有べし。彫物をするともほまれにならず、又ほらず共恥にもならず、是番匠の職に非るが故によく心得有べし。
十 番匠の祖神祭るの事
日本上古より伝へて番匠の祖神祭事は其職たる人のつね也。然共、祖神ましますことは知りながら其神名を取失ひ、仏者に混雑せられ、其祭においては仏経を誦、魚類を禁じ精進なることは、神事に非して仏法らしき紛物也。然ば屋造り、棟上等にも魚類を禁べきに、左はなくて反て酒肴等の統義を用ゆるは何事ぞや。是日本上古の遺風たへざるもの也。故に魚類を禁ずるは必仏者の取為としるべし。祖神の神の字を貴むからは、是非神事ならでは叶はぬ事也。早く本道へ立かへりて、日本の神事(に)改、日々に尊信し奉るべし。
番匠の祖神祭るの次第。
手置帆負命(たおきほおいのみこと)
彦狭知命(ひこさちのみこと)
如此(このごとく)板にでも紙にて此神号を書し、神棚に祭べし。神棚の上に鈴をかけて神並びの度毎に引きならすべし。
祭日五節句、又毎月朔日(ついたち)、十五日、二十八日。
借物
鏡餅 二 正月には勿論つねには見合たるべし。
神酒(みき) 弐瓶
魚類 弐尾 何にても時の見合たるべし。
御供(ごくう) 弐膳 長〇を用ゆて白木の木具を用ひてよし。ぬり物はあしし。
松榊を立べし
毎朝怠ず神拝して神恩を謝すべし。
禁忌(いみもの)
樒(しきみ) 俗に是を花枝といふ。大毒木なる故神事に不用(用いず)故に、あしきみと訓ず。「あ」を略して今しきみといふ。毒木也事は日本の書はもちろん唐土草綱目毒草の部の内にも見へたり。
線香 抹香 シキミにてセイスルゆえ右に同じ。或は常此香を匂へば自然とウツ上の病を生じ、あるいは人のキ(気)ヲヘラスといふ。よってソクセツシヤウカウバン(常香盤)の日(火)にてたばこをすわざるは此謂也。故に神社に香を焼ざるを見てスイリヤウすべし。元来香を用ゆる事はイコク(異国)よりはじまる也。天竺などは別して熱コク(国)也。ゆへに人のミチくさし、此ゆへにキ(貴)人に対メンするときはかなら(必)ずエカウロをマヘにおいてそのミのアシイをシリゾクル也。大ちとろん(大智度論)にもテンジクのクニはネツス以てミのクサキゆへを香以てミを 〇、ミニヌルといへり。
仏経 並に念仏唱ふるべからず。
数珠 並に仏具類
尼僧及汚穢、不浄の人神前に近付べからず。
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